自閉症スペクトラム障害(発達障害)の一種です。
子供さんに多くみられますが、昨今では成人の方々においても多勢おられことが周知されてきました。
こだわりの強い興味のある好きなこと以外は、「どうでもよく」、年齢にそぐわずに、落ち着きがなくて注意散漫なため、思いついたら先々を考えることなく、自分の気もちが優先することから突飛で衝動的ともいえる行動に移ることが多いといわれています。
このため、様々な日常生活において「空気がよめない」などと揶揄され、つらい状況に強いられることが少なくありません。成人では「多動性」が、多少なりとも目立たなくなることが多いようです。なお、双極性障害との併存が多いとされています。

成人期に発達障害を診断することの重要性

  • 発達障害の特性に気づかれずに、青年期・成人期に至る事例の存在
  • 統合失調症などと誤診されている事例の存在
  • 合併した精神障害の病像を修飾する
  • 治療方針・治療の反応性・予後予測に重大な影響を与える

2歳までの行動特徴

  • なぜ大切なのか?
  • 自閉症スペクトラムと他の障害を区別する
  • 自閉症スペクトラムであれば2歳までになんらかのサインがある
  • 現在の状態のみでは自閉症スペクトラムかどうか、判断が難しい時に2歳までの状態が参考になる   

注目しておくべき2歳までの特性

  • 異常なほどおとなしい、静か、受動的
  • 抱きしめた時の反応
  • アイコンタクト
  • 応答性の微笑
  • 抱っこの要求

  • 幼児期のまね遊びにおけるやりとり
  • バイバイ
  • 喃語によるコミュニケーション
  • 話しかけに対する反応
  • 周囲のものへの興味
  • 興味の共有
  • 指差した方を見る

  • 特別な興味
  • 身辺のケアを受けることを嫌がる
  • 音に対する過敏
  • 奇妙な動き
  • その他の問題―多動など

支援について

  • 福祉制度
    年金、精神保健福祉手帳、就労支援制度など
  • 間違った目標設定をしない
    不適切な目標設定の例
    友人を作る
    他者との交流を増やす
    社交的になる
    こだわりをなくす
    「やればできる」とみなさない
    片付け
    身だしなみ
    挨拶
    本人の「動機」を大切にする
    就労を最優先にしない

注意欠陥・多動性障害(ADHD)児と家族との相互作用を理解しましょう

  • 親の注意→子どもが従わない→命令・指示的対応の増加→体罰
  • 否定的態度の増加、肯定的態度の減少
  • 養育に対する自信の欠乏、ストレスの増大
  • 父親や祖父母が母親を責め、母親が孤立
  • 母親の抑うつ、アルコール量の増加
  • 夫婦間の葛藤、別居、離婚
  • 発達障害児の衝動性、問題行動による兄弟間のトラブル
  • 親の否定的対応→児の自己評価の低下→攻撃的行動
  • 学校での問題行動の増加、反抗挑戦性障害、行為障害を助長
    児の病態→家族のストレス↑→児の症状の悪化

自閉症スペクトラム障害を理解しましょう

  • 自閉症スペクトラム障害のある人が常に抱えているストレスの大きさを過小評価してはいけません。感覚過敏のせいで、学校や職場が大変にストレスのたまる場所になることがあります。この問題は個人差が非常に大きいものです。
  • 積極的行動支援の原理と行動修正のテクニックを活用しましょう。
  • 「すべての行動はコミュニケーションである―子どもはこの行動によって何を言おうとしているのか」を常に念頭に置きましょう。
  • 「私にはできない」(知識や能力がない)と「私はやりたくない」(やり方はわかるが、あえてやらない)を区別しましょう。
  • 「子どもであろうと大人であろうと、すべての行動には機能がある」ことを忘れずに。
  • 不適切な行動があるときは、まず環境に原因がないかどうかを調べましょう。過剰な感覚刺激はないでしょうか。
  • 定期的に現在の指導を見直しましょう。「今教えようとしている行動は、本当に必要か」「今やめさせようとしている執着は、本当にそれほど有害なのか」と問い直してみましょう。親や教師はときに、子ども本人やほかの人ではなく自分にとって不快な行動だからやめさせようとすることがあります。
  • よい面を強調しましょう!子どもには、よくできた面も伝えましょう。
  • 子どもにもティーンエイジャーにも大人に対しても、自分の行動をコントロールする責任は自分にあることを、ことばや目に見えるかたちで強調しましょう。そのようなことをまったく教えられてこなかった人もいるのです。
  • 子どもには、ことばを字義通りに解釈する傾向が大変強くあります。ことばが足りないために子どもを混乱させないよう注意しましょう。部屋を「片づけなさい」と言うだけでは意味が通じないことがあります。「片づける」とは具体的にどういうことなのかを説明することが必要です。そうしなければ、子どもはあなたが省略した部分を理解できないので、あなたがことばにした通りのことしか実行しません。彼らには言外の意味を察することはできないのです。
  • 子どもの社会性について、本人の個性を無視して過大な期待をしていないでしょうか。自閉症スペクトラム障害のある人の誰もが、パーティーの花形や主人公になりたいわけではありません。ひとりでいるのが好きで、それで幸せで満足している場合も少なくありません。人との交流については、本人の個性と選択を尊重します。人づきあいのスキルに欠けているためにひとりぼっちになる場合と、基本的なスキルはあるがひとりでいるほうが好きな場合を区別しましょう。自分の価値観を押しつけてはいけません。
  • 人の感情や気分は毎日、ときには毎分のように変化するものです。それは自閉症スペクトラム障害のある人も例外ではありません。彼らがいつもむらなく感情を制御することを期待していないか、再確認してみてください。あなたが自分自身の感情の揺れを許容するように、自閉症スペクトラム障害のある人にも許容しているでしょうか。
  • 具体的行動と並行して、感情面の問題を解決する方法を教えましょう。幼い子どもには具体的行動を教える必要がありますが、成長するにつれ、感情面の問題解決を身につけることは、長い目で見て子どもの役に立ちます。価値は、結果ではなくプロセスにあります。
  • 自閉症スペクトラム障害のある人は、感情表現のオン・オフがはっきりしていることを理解しておきましょう。アスペルガー症候群のある大人は、いったん感情を爆発させたら、それで気がおさまることがあります。しかし、彼らの行動がまわりの人の心に与えた影響は簡単には消えないということに、彼らは気づいていないことが多いのです。彼らの認識の中にはもう爆発の余韻が残っていないので、周囲の人の感情を修復する必要があるのを見落としてしまうことがあります。「もうすんだことだろう?」と言いたげな態度が、人の気持ちがわからないとか、共感性に欠けると解釈されます。まわりの人の気持ちがまだぎくしゃくしているのに、それを非言語的サインから読み取れない場合には、とくにそのように思われてしまいます。
  • 対人的な場面で「きちんとしたい」という願望が強すぎると、巨大なストレスを生むことがあります。学校できちんとしようとがんばりすぎて、家に帰ると爆発したり、あるいはその日の緊張を解くために引きこもってしまう子どももいます。にもかかわらず、親が高い期待をかけて、家でもきちんとふるまうことを求めたり、放課後の地域の活動に参加させたりして限界以上のものを求めることがあります。「学校であんなにきちんとできるのだから、家でも(体育館やソーシャルスキルのグループでも)できないはずがない」と安易に考えてはいけません。このタイプの子どもには必要なのは、規則的な休憩、感覚刺激の少ない安全な環境、ゆとりのあるスケジュールかもしれません。
  • セルフトーク(社会的場面で自分に言い聞かせること)に注意するよう教えましょう。よくある否定的なセルフトークを肯定的なセルフトークに置き換えられるよう支援しましょう。
  • 子どもでも大人でも怒りや不安やストレスを表現する方法にはおもに二通りあって、積極的に爆発させるか、消極的に引きこもるかのどちらかです。支援が必要なのは、感情をあらわにし、爆発させるタイプの人だけではありません。沈黙し、人前を避けたがる消極的な人にも同じように支援が必要なのですが、見落とされがちです。

テンプル・グランディン ショーン・バロン(2009).自閉症スペクトラム障害のある人が才能をいかすための人間関係10のルール 株式会社明石書店

思春期青年期という年代

↓テーブルを左にスクロールできます。

  発達課題 葛藤の特性 危機の様態
前思春期 
(10~13歳くらい)
母親離れ開始 母親コンシャス 
両価性の亢進 
仲間集団への加入
外界への被圧倒感 
母親への屈服
思春期前期 
(13~15歳くらい)
母親離れ進行 
友人関係への没頭 
自我理想の形成
仲間コンシャス 
親の価値切り下げ
恥への過敏性亢進 
傷つくより家へ戻る
思春期後期 
(15~17歳くらい)
自分さがし 
自分づくり
自己コンシャス 
自己愛性の亢進
自己をめぐる過敏性 
自己へのひきこもり

齊藤万比古(2009). 発達障害が引き起こす二次障害へのケアとサポート 学研教育出版

治療方法

まずは、
①作業を小分けにして、ひとつずつこなしていく
②完璧を目指さず、できることから手をつける
③必要なものなどは、目につきやすい場所やよく通るところに置くか貼る。
状況に応じては、アラームを活用してみるのもよいでしょう。

症状とうまくつきあっていけるように、ご一緒に考えていきましょう。

一般的な日常生活のみならず、様々な生活環境や人間関係などを加味しながら、ご一緒に相談していきましょう。状況に応じては、薬物治療も行います。 なお、漢方治療が奏功する場合も多いようです。

広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー障害など)

米国の精神科医レオ・カナーが初めて早期自閉症を報告したのは、1943年でした。このころは、最早期に発症した統合失調症とする考え方が中心で、次のような特徴があげられました。

  1. 人生初期から対人疎通性に欠け、感情的接触がもてない。
  2. 意思伝達のために言語を使えない。
  3. 同一性保持のために極端な強迫的(無意味と思っても抑制できない)願望がある。
  4. 物体に対して異常な執着をする。
  5. 良好な認知能力をもつ。
  6. 患者の両親は知的にすぐれ、強迫的で温かさに欠ける。

このうち(6)を広く解釈したため、「親の愛情が不足している」という、いわゆる心因論がはなやかな時代もありましたが、その後の研究などから、この考えは否定されています。
その後、統合失調症とは一線を画し、自閉症として独立しました。しかし、「自閉症」という言葉からイメージされるものは「周囲からの働きかけに反応しない子ども」ですが、現実には、それは就学前のある時期だけのことです。

 就学後は、抱える知的障害の程度に応じて、周囲との関係をもとうとしますが、相手の気持ちが理解できないために、うまくいかないことが多いのです。思春期以降には、自分が周囲と良好な関係をもてないことに悩んだ末に、現実逃避による幻覚・妄想や、気分の障害が出現することもあります。

自閉症とは

精神科では操作的診断基準(あらかじめ用意した項目をいくつ満たしているかで診断する)が使われており、自閉症は「広汎性発達障害」という診断カテゴリーの中に分類されています。
広汎性発達障害は、「相互的社会関係とコミュニケーションにおける質的障害、限局した常同的(いつも同一でパターン化された)で反復的な関心と活動の幅」により特徴づけられる一群です。DSM-Ⅳ-TR(米国精神医学会の診断基準)によれば、この中に「自閉性障害」、「レット障害」、「小児期崩壊性障害」「アスペルガー障害」、「特定不能の広汎性障害(非定型自閉症)などが含まれます(表Ⅱ-14-1)。
自閉性障害は、大前提として、(1)対人的相互作用、(2)対人的意思伝達に用いられる言語、(3)象徴的または想像的遊び、のうち一つにおける機能の遅れまたは異常が、3歳以前に存在します。
対人的相互反応の質的異常としては、「視線・表情・姿勢・身振りなど非言語性行動を適切に使用できない」、「発達に相応した仲間関係を十分に作れない」、「喜び・興味・達成感を他人と共有できない」、「対人的または情緒的相互性の欠如」のうち、2項目以上が合致します。
意思伝達の質的異常としては、「話し言葉の発達遅延または完全な欠如がある」、「他人との会話を開始し継続するのが苦手である」、「常同的・反復的な言葉の使用や特有な単語がある」、「自発的なごっこ遊びや社会性のある物まね遊びが欠如する」など4項目のうち、1項目以上が合致します。
行動・興味・活動性が限定され、反復・常同的な行動様式については、「常同的で限定されたものにのみ興味をもち、熱中する」、「特定の習慣や儀式に強迫的に執着する」、「手指や身体を使った、常同・反復的な奇異な行動がある」、「物体の一部にのみ熱中する」など、4項目のうち1項目以上が合致します。

また、これら質的異常全体で、合計6項目が存在していることが、診断の条件になっています。もちろん、他の障害の診断基準を満たさないことも条件になっています。

発症する年代

表Ⅱ-14-1にあるように、3歳までには症状が出現するとされています。発症年齢が遅い時、診断基準を完全には満たさない際には、「非定型自閉症」という診断がされます。

 最近の報告では、100人に1~2人とされており、男女比は3対1から5対1で、男子に多いとされています。その75%は知的障害をともなうことも知られています。

表Ⅱ-14-1 広汎性発達障害の特徴

 

自閉性障害 レット障害 小児期崩壊性障害 アスペルガー障害
発症年齢
ほぼ3歳までに
4歳以前(5カ月は正常)
10歳前(2年は正常)

就学前に気づく
有病率 100人に1~2人 10000に0.5~1人 自閉症の1/15~1/40 報告が少ない
男女比 3~5:1 女子のみ 男子に多い 8:1
精神遅滞 正常~重度 重度 中度~重度 ほぼ正常
身体面の障害 特にはない 頭囲成長、歩行 特にはない 特にはない
言語面の障害 軽度~重度 重度、持続 重度、持続 ほぼ正常
対人面の障害 ほぼ全例、持続 経過の早期に発症 重度、持続 相互的社会性、持続
行動面の障害 常同、多動、衝撃的 手もみ、過呼吸 常動・反復、
排泄
常同・反復、衝動的
情緒面の障害
脳波
予後
狭い興味、音に過敏
約20%にてんかん
全体としてよくない
周囲への反応低下.脳波異常・けいれん よくない 狭い興味、執着傾向
脳波異常・けいれん
持続してよくない
思春期に精神症状
ときに脳波異常
症状は一生つづく

レット障害
生後5カ月の正常な発達の後、目的のある手の動きが失われ、その後、手もみ様の常同的な動きが30カ月までに出現します。出生時の頭囲は正常ですが、4歳までには頭囲の成長が減速します。経過の早期に対人的関与が消失し、歩行や体幹の動きに問題が生じます。女子のみで報告され、重度・最重度の精神遅滞をともないます。

小児期崩壊性障害
少なくとも2年の正常な発達の後、著明な退行が出現します。その後10歳までに表出―受容性言語、対人関係、適応行動、排泄行動、遊び、運動能力のうち2つにおいて、獲得したものが喪失されます。臨床的には、明らかな対人関係における障害、意思伝達の障害、奇妙な常同的行動を呈します。

アスペルガー障害
持続する重症な対人関係の障害および、限定された反復・常同的な行動・興味・活動の障害があります。明らかな社会的機能の障害をひきおこしていますが、認知の発達、自己管理能力、適応行動、環境への好奇心には遅れはありません。明らかな言語の遅れを認めない点で、自閉症と異なります。男子に多く、原則として精神遅滞を認めません。

症状

対人疎通性の欠如については「ひとり遊び」、「視線回避」、「人見知りのなさ」、「後追いの欠如」、「あやしても笑わない」、「抱っこしにくい」などがあります。
言語による意思伝達の乏しさについては「反響言語」(おうむ返しともいわれ、言われた文節をそのままの調子で話す)、「名を呼ばれても反応しない」(呼名回避)、「他人の手を使って意思を伝える」、「言葉の意味の取り違え」、「人称の逆転」などがあります。
同一性の保持については「買い物の道順」、「物の位置」、「特定の物のみを使用する」などが、器物・事象への執着は「時計・電気製品などへの興味」、「水流・点滅などへの興味」として出現します。
良好な認知については、数字・記号・漢字・駅名など単純な記憶にすぐれている反面、応用力に欠けており、社会生活に役立たないことが指摘されています。
発達障害が一般的にそうであるように、症状は年齢により大きく異なっています。3歳までに症状は出現し、就学前ははなばなしいのですが、年長になるにつれ、何らかの残遺症状を残して、外見上の症状ははっきりしなくなります。
1歳くらいまでは、「手がかからなかった」あるいは「はいはいから大変だった」と、記憶は分かれます。2歳まででは、「刺激に対する極端な反応」、「人見知りがない」、呼名回避、言語遅滞、偏食などが目立ちます。就学までには、「多動で迷子になる」、「おもちゃに興味を示さない」、「おもちゃを本来の目的に使わない」、「ひとり遊びを好む」、「形式的な遊びにとどまる」、「こだわりが目立つ」、「グルグル回っても目がまわらない」、視線回避などがあります。
就学後は一時的に安定期になりますが、知的水準や言語遅滞の程度により、パニックが生じ睡眠障害がみられます。男子では、小学校高学年になると母親より体力が強くなるため、家庭や学校での対応が難しくなります。

原因

現時点では、その本当の原因は不明ですが、前途した「心因論」は否定され、器質的・機能的な問題がその中心であると考えられています。その理由として、胎生期、周産期の問題の存在や、感染症の後で自閉症に特有な症状が出現することなどがあります。また、通常の子どもと比較して、脳波異常やてんかん発作の出現率が高いことも、これらの考えを示唆しています。
臨床的経験からも、言葉の理解や、物事の流れや筋道の理解など、認知の障害を認めます。また、知覚の情報処理にも問題があり、これらの「入力の障害」が自閉症の本質とも考えられています。
最近の事象関連電位(刺激を与えた際に生じる脳波上の特定の成分を加算平均して得られた電位。認知処理過程の段階を表すと考えられている)の研究からは、注意の方向性の障害が指摘されており、脳の画像診断からは、大脳辺縁系や小脳の障害も示唆されています。

治療と経過

以前は、「早く治す」ことが目的とされ、特効薬と称される薬にとびついたり、「どうしたら通常学級に就学できるか」に頭を悩ます保護者も多数いました。
 最近は「早く発見して、療育を始める」方向に変わっていますが、療育には時間も手間も必要とし、実際に行われている数少ない施設に殺到しているのが現状です。
 TEACCHプログラム(Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children の略。自閉症児(者)のために作られた認知理論と行動理論を組み合わせた治療プログラム。専門スタッフと家族が協力して行う。米国のノースカロライナ大学精神科のショプラー教授らにより開発された)の導入になどにより、「障害は障害として、その子どもらしい生き方を求める」ようになりつつあります。その前提として、個別計画の必要性が叫ばれ、教育界でも実施されるようになっています。
 どんな行動にも意味があるはずで、わからないのは理解が不十分であるが故です。一人一人の行動特徴を理解して、「どういう対応が一番混乱をきたさないか」を考える必要があります。指示や教示がうまくいかないのは設定が悪いからであり、子どもにとって過剰な負担にならない選択をすることが重要です。
 現在行われている薬物療法はほとんど対症療法です。てんかん発作や著しい脳波異常には、抗てんかん薬が使用されます。思春期に生じる、激しい自傷や興奮には、抗精神病薬が主として投与されます。激しい気分の変動には、気分安定薬、二次的に生じる抑うつや不安には抗うつ薬や抗不安薬が、睡眠障害には就眠薬などが用いられます。

家族や周囲の人の対処法

一番早く子どもの抱える問題に気づき、心配をするのは家族です。子どもについての情報を最も多くもっているのも、一番の治療者になりうるのも家族です。学校、家庭、医療などが、共通の認識に立って対応していなければ、子どもにより大きな混乱をきたすこととなります。保護者を軸として情報交換を行う必要があります。

予後と生活のアドバイス

予後を支配する要素として、知的水準が目安であることが知られており、ド・マイヤーによる次のような3分類があります。

  1. 一般的に重度精神遅滞があり、言語交流が難しく、社会生活機能が低水準である「低機能自閉症」。
  2. 知的には軽度の遅滞を有し、単語と簡単な日常会話が成立し、社会的認知の障害がある「中機能自閉症」。
  3. 知的水準には遅れはなく、コミュニケーションか可能な言語をもち、通常教育可能なレベルの学力を有する「高機能自閉症」。

低機能自閉症では、幼少期から自閉症特有の症状がつづき、通常の社会適応は難しく、年長になると、激しい「こだわり」、「自傷行為」などの強度行動障害を示すこともあります。主として特別支援学校などに就学し、卒業後は、多くは福祉施設に通所あるいは入所します。
中機能自閉症では、やりとり可能な言語で、部分的に突出した知能をもちますが、複雑な認知や情報処理は困難です。特別支援学級に通うことが多いのですが、思春期以降、不適切に基づく心身症のような症状や精神症状を示すことがあります。要求水準と現実能力の乖離があり、将来的には社会生活への支援が必要です。
高機能自閉症では、就学前後に障害に気づくこともあり、通常教育が可能ですが、論理的思考や対人関係が成立しにくく、思春期以降に被害関係念慮や気分障害を呈することも珍しくありません。教育終了後の社会的自立に困難をきたすことがあります。
アスペルガー障害では、コミュニケーション上の問題は一見目立ちませんが、高機能自閉症と同様に、協調性を要求される職場などに勤めると、不適応をきたします。

間違いやすい病気

 精神遅滞のない広汎性発達障害は、多動が目立つと多動性障害との識別が必要となりますが、コミュニケーションの障害や特有な常同・反復行動の存在を調べると、識別できます。
選択緘黙症は、特定の場面では会話上の問題をもっていない点で区別できます。思春期以降に出現する幻覚・妄想は、統合失調症との識別が必要となりますが、それまでの発達段階を詳しく調べることで区別されます。

市川宏伸.広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー障害など) 樋口輝彦・野村総一郎(編)
こころの医学事典 日本評論社 pp.285-289.

注意欠如・多動性障害(ADHD)

 興味のあることには集中可能だが、嫌いなことやよくわからないことにはほとんど関心を示さず、落ち着きのない子どものいることが、以前から知られていました。多くは小学校卒業までには、他の児童と大きな違いがないまでに落ち着いて、表面的には目立たなくなるとされていました。最近では、3~4人に1人は青年期以降も症状を残して、より大きな行動上の問題や反社会的行動にいたる場合も見受けられます。
 不注意、多動、衝動性を中心的症状とするこれらの子どもを、児童青年精神科では「注意欠如・多動性障害(ADHD)」(米国精神医学会の診断基準であるDSMによる)や、「多動性障害」(WHOの診断基準であるICDによる)などの操作的診断基準(あらかじめ用意した項目をいくつ満たしているかで診断する)を用いて診断しています。

 子どもの精神科の病院である筆者の勤務する病院で、外来初心者に占める割合は増加し、最近は約10%程度です。

注意欠如・多動性障害とは

 歴史的には、70年ほど前から「多動」が知られており、1950年代には器質的障害を念頭において「多動症候群」という診断が使われました。1960年代には小児神経科を中心に「落ち着きを欠いて、手先が不器用で、集中力・持続力が乏しく、学業成績が知的水準に比べて低く、行動異常を生じやすい」子どもをMBD(minimal brain dysfunction=微細脳機能不全)とよびましたが、微細な神経学的異常(ソフトサイン=soft neurological sign)以外に積極的な診断基準がなかったため、最近は使われなくなりました。
教育の機会、教育方法、文化的要因、本人の努力不足と関係なく、知的水準に比べて極端に学力が劣り、科目間のばらつきがみられる子どもをLD(learning disability=「学習障害」)と呼んでいます。神経心理学的知見に基づいて、1970年代頃から使われている概念ですが、これらのうち、授業に集中できず、落ち着きを欠くなど、行動上の問題を抱える子どもはADHDと重なっている概念と考えられます。
学習能力の正常な習得パターンが発達早期から損なわれており、「書けるが読めない」、「読めるが書けない」、「算数操作を行うことのみが困難である」などのLD的要素をもつことも少なくないのです。

発症する年代

操作的診断基準によれば、7歳までには症状のうちのいくつかは生じています。来院する年齢は7~9歳が最も多く、就学後に本人の問題が目立つようになり、受診に至ると考えられます。
来院して診断される最少年齢は3~4歳であり、このころになると発症が明らかになっていると推測されます。症状は幼少期から出現していますが、典型例を除くと就学前の診断は難しい場合もあります。
日本国内の系統的な報告はありませんが、DSMでは有病率は学齢期の3~5%、男女比は4~9対1で男子に多いと報告されています。

症状

操作的診断基準では、不注意として、「綿密に注意できない」、「注意の持続が困難である」「話しかけられても聞いていないかのよう」、「指示に従えない」、「課題や活動を順序立てられない」、「精神的努力の持続が困難である」、「必要なものをよくなくす」、「刺激により注意がそらされる」、「毎日の活動を忘れる」などの項目のうち6項目があてはまります。
多動としては「手足をモジモジさせ、キョロキョロする(非移動性の多動)」、「授業中の離席(移動性の多動)」、「走り回り、高い所にのぼる」、「静かに遊べない」、「じっとしていられない」、「しゃべりすぎる」などが、衝動性としては「質問が終わる前に答える」、「順番が待てない」、「他人の行動に割り込み邪魔する」などがあげられています。これらの9項目のうち6項目を6カ月以上満たしていると、多動―衝動性にあてはまります。
これらの症状は、家庭、学校、学童保育、診察室などのうち、2ヶ所以上で確認されます。これ以外にも、極端な不器用さなどが認められることもあります。

原因

 最初に報告された症例は脳炎後遺症でした。極端な栄養障害、頭部外傷後遺症、一酸化炭素中毒、鉛の慢性中毒など、生後に罹患した脳の機能障害が原因と考えられる症例もあります。また、低体重出生、新生児仮死、重症黄疸など、周産期の異常が何らかの関与をしているとされる場合もあります。
臨床場面では、父や兄弟にADHDを認めることも多く、遺伝的素因が注目されています。米国では、染色体異常などの遺伝的検討も最近進んでいますが、単純な遺伝形態ではなく、多遺伝子が関与する遺伝と推測されています。
1930年代から中枢神経刺激薬(精神刺激薬)により改善される例が知られており、脳内の神経伝達物質の関与が推測されてきました。ドーパミンをはじめとする脳内アミンなど、生理活性物質の異常が多動や集中力の欠如に関係していると考えられています。
最近はドーパミン・トランスポーターの変異(ドーパミンの過剰の取り込みに基づく受容体への作用時間短縮)、ドーパミンD4受容体の変異(集中力などに関与するD4受容体の立体構造が変化し、ドーパミンの作用が低下)などが指摘されていますが、十分に解明されたとはいえません。これ以外にも、ノルアドレナリン、セロトニン、アセチルコリンなどについての仮説が報告されています。

治療と経過

 ADHD児では、症状により新たな能力の獲得に失敗することが多く、正常な自我の発達が妨げられています。このため、自己評価の低下、自信喪失、自己卑下、引っ込み思案などの心理的特徴があげられます。
家族が、知的水準からは理解できない患児の行動を叱責したり罰を与えると、自尊心を傷つけ、自信喪失を促進させてしまいます。長期的には、この自己評価の低下を防止することが重要であり、そのためには、周囲からの対応の工夫や環境の調整が大切です。
一部の例では薬物の有効性も知られています。以前より、中枢神経刺激薬が多動や集中力の改善に一時的に有効なことが知られており、現在も第一選択薬の一つとなっています。覚醒・睡眠水準の障害に基づく多動や集中力欠如を、昼間の覚醒水準を引き上げることで改善しようとする仮説に基づいたものです。
国内で臨床的に使用される中枢刺激薬は、メチルフェニデート徐放剤(商品名コンサータ)が大部分です。覚醒作用があるため、睡眠前に投与すると不眠を招くこともあり、通常は朝1回投与します(初回18mgくらい)。効果は12時間です。有効性の判断にはいくつかの行動評価表がよく使われます。
長期間大量に投薬すると効果が減弱しますが、漫然と増量すると過鎮静をきたす場合もあるので、週末や長期休暇などに休薬日を設定して、用量の増加を防ぎます。
副作用としては、食欲の低下、不眠、衝動性の亢進、チック症状の出現などが知られており、必要に応じて減量または薬物の変更を行います。思春期以降では、幻覚・妄想などの精神症状に注意して投与する必要があります。
メチルフェニデートによる症状の著明な改善は30%、軽度の改善を含めると70%近くに有効です。しかし、「薬物への反応性を服薬前に知ることが難しい」、「厚生労働省がこの薬のADHDへの保険適用を6~18歳しか認めていない」などの課題があります。
中枢刺激薬以外に、アトモキセチン(商品名ストラテラ)が6~18歳のADHD児に使用が認められています。体重依存的に用量が決められ、朝夕2回の服用が推奨されています。メチルフェニデートは数時間で効果が出現しますが、アトモキセチンは2~3週間必要です。ノルアドレナリンに作用しますが、前頭前野においては、ドーパミンとノルアドレナリンのトランスポーター機能が重複しているため効果が出ます。メチルフェニデートは他部位のドーパミンに作用して乱用や依存を引き起こしますが、アトモキセチンにはその危険はありません。
衝動性が亢進している場合は、脳波異常も改善するカルバマゼピンなどの気分安定薬が使用されます。興奮が激しい場合は、リスぺリドン(商品名リスパダール)など鎮静効果の強い抗精神病薬も用いられます。メチルフェニデートの服用でチック症状が現れる場合は、抗うつ薬や抗精神病薬が使われます。

家族や周囲の人の対処法

 家族には、障害の本質をよく理解してもらい、本人の自尊心を回復し、自己評価を高めるような環境の整備に努めてもらう必要があります。
知的水準からは説明できない学力不振があるため、学校の先生からも叱られ、結果として「反抗的」とされることもあります。学校の先生にも患児の障害をよく理解してもらい、適切な環境を作ってもらうことが重要です。
学童期までの一時的な治療は、中枢神経刺激薬を中心とした薬物療法ですが、もっと重要なのは、環境の調整です。興奮した時も、集団から離れれば落ち着きますし、一人になって落ち着いてからたずねられれば、その時の気持ちを説明してくれます。
身近な者からは「ほめられ」、友達からは「さすがだなあと思われる」場面が増えるように、お膳立てをする必要があります。年少時から意味のある対応をして、学童期後半以降の行動上の問題の出現を少しでも軽減することが大切です。
多くのADHDの子どもがLD的要素をもっていることを考慮して、短く、はっきりと、わかりやすく説明する必要がありますし、知的水準と乖離した社会的常識の欠如がみられるため、ときには社会的常識を教示することも必要となります。

予後と生活のアドバイス

 年齢が上がるにつれて、多動は表面的には目立たなくなりますが、特定の興味のあることを除けば、集中力の欠如や持続力の不足は継続します。知的水準の遅れはほとんどないのに、学業成績は悪いのが特徴です。「能力があるのに努力を怠るため成績が悪い」とされ、家族からも学校の先生からも叱られることがあります。
学習障害的側面をともなうことも多く、社会的常識も不十分なため、他の児童への配慮が不足して、良好な対人関係を築くことは苦手です。小学校高学年以上では、集団からはずれて「いじめ」の対象になることもあります。
ほめられることもなく、評価もされないため、挫折感や劣等感が強まり、自己評価が低下して、衝動性が亢進することも珍しくありません。衝動性の亢進は、適切な環境で成育すると目立たないとされ、周囲の環境や対応に大きく左右されます。挫折感や劣等感が強まると、自責感が生じて、二次的に抑うつや不安が強まり、不登校状態になり、ひきこもることもあります。
協調性を要求される職場などでは苦労しますが、マイペースで仕事ができる環境では、並はずれた業績を残す場合もあると考えられています。エジソン、アインシュタイン、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの天才もその例と考えられています。

間違いやすい病気

 似た症状を一時的に示すため、鑑別を必要とする診断には、常同運動障害(中等、重度精神遅滞をともなう小児が、多動や注意に大きな問題を示し、しばしば常同行動を示す)、知的水準の高い自閉症障害(多動や不注意は類似するが、独特のコミュニケーション・パターンが異なる)、行為障害(反復し持続する反社会的、攻撃的、反抗的パターンを示し、衝動性の亢進は類似しているが不注意は目立たない)などがあげられます。

市川宏伸.注意欠如・多動性障害(ADHD) 樋口輝彦・野村総一郎(編)
こころの医学事典 日本評論社 pp.289-292.

学習障害(LD)

学習障害とは

 操作的診断基準(あらかじめ用意した項目をいくつ満たしているかで診断する)に基づく学習障害には、読字障害(読みの正確さと理解力の障害)、算数障害(算数能力の障害)、書字表出障害(書字能力の障害)があります。
 通常は成績とIQの間に、2標準偏差以上の乖離があることで定義されます。多くの場合「精神遅滞」、「広汎性発達障害」、「注意欠如・多動性障害(ADHD)」、「行為障害」などに随伴します。
 神経心理学では、「音や映像など外部の刺激を耳や目で受け入れて、意味のある情報として理解するまでの過程に何らかの障害をもつ」とされています。教育界では、この広い学習障害の概念が長らく取り入れられており、操作的診断基準における学習障害(言語性の障害)に加えて、習慣、常識、規範などの障害(非言語性の障害)も含んでいます。背景には認知能力の障害、発達過程における非言語的学習の欠如が考えられます。

 発症と症状

 内容によりますが、通常は就学前あるいは就学後に障害が明らかになってきます。診断基準によれば、読字障害では「読みの正確さと理解力についての到達度が、生活年齢、知能、教育程度に比べて十分に低いこと」、算数障害では「算数能力が生活年齢、知能、教育程度に比べて十分に低いこと」、書字表出障害では「書字能力が生活年齢、知能、教育程度に比べて十分に低いこと」があげられています。
これらの障害は学業成績や日常活動を明らかに妨害しており、感覚器の欠陥だけでは説明できないほどのものです。

 原因

 学習障害に関連する認知処理異常(視覚、言語処理、注意、記憶など)の存在が推測されています。この背景には遺伝的要因、周産期異常、神経学的疾患が示唆されていますが、詳細については不明です。

 治療と経過

 学習障害そのものは、多くは教育場面で問題になり、随伴した行動上の問題が出現してから、医療機関を訪れます。来院主訴をよく分析し、その背後に学習障害が推定される場合は、次のようないくつかの心理検査を行い、背景にある障害を推測します。
(1)WISC-Ⅲ=言語性IQと動作性IQの乖離、各下位検査項目の得点から特異性を調べます。
(2)ITPA=視覚認知と聴覚認知の乖離を調べます。
(3)K-ABC=情報処理回路を調べ、認知処理の仕方を調べます。
これらの結果を参照して、本人の得意な部分と不得意な部分と不得意な部分を理解し、得な部分を中心に学習を促進します。苦手な部分については、明快に、短く、やさしい説明を心がけ、理解力の乏しさに対応します。

 周囲の対処法と予後

 知的水準が高いにもかかわらず、学業成績が悪いことで、家庭や学校で叱責の機会が増えやすいので、注意します。家庭や学校で適切な対応や環境調整を行い、他の児童と同じにできないことで生じる、二次的な自己評価の低下や衝動性の亢進に注意します。

 間違いやすい病気

 精神遅滞、広汎性発達障害、コミュニケーション障害では、その障害の程度では説明できない場合にのみ診断されます。
注意欠如・多動性障害、行為障害、発達性強調運動障害、うつ病などに学習障害をともなう場合があります。

市川宏伸.学習障害(LD) 樋口輝彦・野村総一郎(編)
こころの医学事典 日本評論社 pp.292-293.