保険・自費診療に関して

保険診療は使えますか?
各種保険・補助(生活保護を含む)を取り扱っています。ご不明な点などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
自費診療は可能でしょうか?
ご希望に応じて自費診療も受付いたしますので、ご相談ください。
保険は使えますか?
保険診療には様々な法規制がございます。この範囲を超えるご要望には自費診療で対応いたします。
医療費控除は受けられますか?
問題ございません。確定申告の際に当クリニックの領収書を添付して控除申請をしてください。
自立支援医療は利用できますか?
当クリニックは、自立支援指定医療機関です。利用を希望される方は、診察時にご相談ください。
既にご利用されているような方は、お住まいの自治体にお問い合わせの上、受診医療機関への変更手続きを行ってください。
会社を休んでいて、経済的に困ってます。傷病手当金とか、聞きましたがよくわかりません。
全国健康保険協会の傷病手当金のページをご覧になるか、当クリックの精神保健福祉士にご相談ください。
運転は大丈夫?
高齢運転者において運転能力に影響する因子

・認知機能(特に情報処理スピード、実行機能など)
・視力、有効視野、コントラスト、明暗順応
・聴力、振動覚
・注意力
・反応時間
・ブレーキ、アクセル等の操作に必要な筋力、可動域、協調性
・ポリファーマシー
・睡眠障害
・アルコール

・認知機能と運転能力は必ずしも相関せず、最近の事故歴などが強力な事故予測因子です。
・運転能力は多因子が影響し、ハイリスクなケースを検出するのに有効な絶対的検査は存在しません。
・運転の中止はうつ症状や社会性の低下などと関連がある。中止する際には、公的資源を含めた代替手段の検討が必要です。

受診・治療に関して

最近出産をした後、「うつ病」の症状が目立っています。授乳が希望ですが、どうしたらいいですか?
母乳からの移行の少ない抗うつ薬であれば、赤ちゃんへの影響はないとされております。気軽にご相談ください。
認知療法って何をするの?
「心の癖(くせ)」を修正していきます
  1. 全か無か思考
  2. 一般化のしすぎ
  3. 心のフィルター
  4. マイナス化思考
  5. 結論の飛躍
  6. 誇大視と過小評価
  7. 感情的決めつけ
  8. すべき思考
  9. レッテル貼り
  10. 自己関連づけ

重なり合っている部分もありますが、さしあたり、自分が陥りやすいパターンを知るようにすれば、効果的です。
※精神疾患は予防や早期治療が大切です。

初診の患者ですが、患者本人を連れていけない場合は受診できますか?
当クリニックでは、患者さまに受診していただくことを前提としております。この場合は、ぜひ家族相談を活用してください。
治療はどんなことをするのですか?
問診と手間をお掛けしない心理検査後、専門のPSWによる予診、医師の診察という流れになります。
医師は、診察と診断をして必要に応じた治療の選択(漢方を含めた薬物療法、対人関係療法・認知行動療法・精神療法など)を行います。
なお、再診の方は、診療時間内での電話相談も可能ですが、診療中にすぐ対応できないことをご容赦ください。その際には、大方の電話相談時間をお知らせします。
自分が病気なのかわかりません。それでも受診していいですか?
こころと身体は、表裏をなしております。従って、どちらのバランスが乱れても、「何かいつもとちがう」、「おかしいな?」などと感じることは珍しくありません。その際には、心療内科・精神科へ気軽にご相談されることをお勧めします。
今は病気ではないように思うけど、このままでは病気になりそう
事情は多岐に及ぶでしょうが、いわゆる「ストレス」に対して、現代医学による様々なサポートをご本人さまなどと十分に納得していただくまでご相談をいたします。その上でベストな方針・対策を後手に回らぬよう(病状が悪化することのないよう)講じます。
1回あたりの診療時間を教えてください。
概ね初診は、30~45分程度、再診時は10~20程度を想定しております。時間に余裕がない場合やとても大きく切迫した問題を抱えてらっしゃる場合には、可能な限り臨機応変な対応を心がけますので、ご相談ください。
お薬が大嫌いです。診察だけの診療はできますか?
ご本人の意向を踏まえた診療を心がけております。相談を十分にさせていただいた上で、診療において無理のないベストな方向性を決めていくように努めます。
薬の副作用がこわいのですが・・・
飲み続けて、「ボケる」ということは、ありません。多いのは、眠気や吐き気といった対処可能で軽度なものばかりですが、ご本人さまにはとてもつらく、「もう、薬はいらない」と 思うことは十分に理解できます。
しかしながら、病状に応じて、どうしても必要な際には、後手に回らぬよう(入院にならないよう)、焦らず自分に合う薬や様々な方策を、じっくりご相談させていただきながら、納得するまで一緒に決めていきましょう。
受診したいのですが、職場に知られてしまうことが気になっています。
当クリニックでは、個人情報保護上、診察後に職場の方などからの問合せが、仮にあっても患者ご本人の事前同意がない場合は、診療情報の開示は一切しない方針をとっておりますのでご安心ください。
薬をのむと止められなくなりますか?
薬の処方の際には、病気・障害および薬のご説明にあわせ、患者ご本人やご家族の方々が納得していただくまで、適宜各製薬会社さまの理解しやすい様々なパンフレットなどや当クリニック規定の参考資料を無料で配布させていただきながら、真摯に対応いたします。信頼できると思われた際には、僭越ながら医師の指示通りに服用していただければ、「依存・依存症」の問題はありません。
漢方薬はずっとのみ続けなければいけませんか?
症状が改善すれば、それ以上のみ続ける必要はありませんが、自己判断をせず医師にご相談してください。
診療に来たことや、話した内容は家族にも秘密にしてもらえますか?
秘密は守られます。法的にも、守秘義務が課せられておりますので、ご安心ください。また、当クリニックでは、相談室・診察室・処置室の壁を防音加工しておりますので、ご安心ください。
発達障害の診療は受けられますか?
基本的に、どの年代の方々ともに、診療可能です。
診断に際し、画像検査、脳波検査などが必要な際には、提携医療機関をご紹介させていただくこともございます。
認知症の問題行動の診療は可能ですか?
何ら問題ございません。認知症のいわゆる「周辺症状」とされる、妄想・徘徊・暴言などが出始めたら、是非ご相談ください。
多くの場合、診察及び薬物療法にて、相当程度改善し周囲の介護負担は軽減されます。あきらめずに、気軽にご相談ください。
身体の薬も出してくれますか?
精神科・心療内科の治療に必要な際に、一時的に処方する場合はございます。しかしながら、長期的な観点から、しかるべき提携医療機関への受診をお勧めしております。
当クリニックでは、甲状腺機能障害、貧血、糖尿病などが、様々な精神症状の直接的な原因であることが多い状況を踏まえ、適宜身体のご病気の早期発見・原因追求にも努めてまいります。
メールでのご相談は可能ですか
申し訳ありませんが、いまのところ、メールでのご相談は行っておりません。直接、受診をしていただいて、ご相談をさせていただきます。まずは、当クリックにお電話ください。
一度の診察で、診断はつくんですか
一度で診断できる場合と、そうでない場合があります。何度かお話しを聞かせていただいたり、各種検査の結果や病状の経過などで診断がかわることもあります。その都度、必要に応じて、現在の状態から今後推量される病状の変化、他の方針や方策「着地点」などをご説明させていただきます。
病気とは思ってませんが、相談したい悩みがあります。
どうぞ気軽に相談してください。身内や友人にはかえって話しづらいこと、他人だからむしろ話せること、「専門家」の意見を一度聞きたいなどあるでしょう。
まずは、気軽にお立ち寄りください。
心療内科・内科、心療内科・産婦人科などとなってる場合は、どのように判断すればいいのではしょうか
まずは、精神科の診療経験が充分な専門の精神科医がおられるかどうか、確認した方が安全と考えます。
薬をのみ続けることを家族が心配しています。
最近は、長期的に服用することによる副作用の心配がぐっと少なくなりましたので、安心してください。
但し、病状が軽減した後も、再発する可能性は、どのどんな病気(例えば、胃潰瘍、脳梗塞など)と同じく完全に否定することは困難です。そのため、医師と相談の上、一定期間(あるいは以上)のみ続ける必要があります。
解離性障害といわれました。どのようにしたら良いでしょうか?
人間は、平素から意識、記憶、自分が自分であるという感覚、知覚などは、うまく統合されて、様々な行動を難無く行っています。一方で、突然の心理的に重大なエピソードや様々で複雑な環境下にて、結局うっ積したフラストレーションにつぶされ、十分に発散できないまま、その機能が無意識に乱されることも少なくありません。この時に最も発現(失立、失歩、失声、けいれん発作、昏迷など)することが多いとされております。けいれん発作や身体的問題によることも多く、実は「落とし穴」となることもまれではありません。まずは、脳波検査、頭部画像検査、状況に応じて、髄液検査をお勧めします。気軽にご相談ください。
妊娠中または妊娠しようとしている時に抗うつ薬を飲んでも大丈夫でしょうか?
精神科医や産科医に相談し、プラス面、マイナス面を考えた上で、自分で決定を下すべき問題です。軽い大うつ病か気分変調症ならば、出産まで抗うつ薬をのまないというやり方をお勧めします。
しかし大うつ病が重かったり、再発だったり、命にかかわる状態だったり、精神病性だったり、過去に出産後うつ病エピソードを経験したりする場合は、うつ病の治療をしない、あるいは止めるという選択は、患者自身とお腹の子どものリスクを非常に高めることになると思われます。

赤ん坊の奇形のリスクという点では、三環系の抗うつ薬は妊娠中にのんでも比較的安全と思われる。誕生後の赤ん坊に、三環系の離脱症状(苛立ち・震え・けいれん)がみられることがありますが、長期的な影響はみられません。三環系抗うつ薬を与えた動物の赤ん坊に行動面や神経化学的な変化が観察されたという研究はあるが、人間ではどうかという点は不明です。

SSRIも、一般に妊娠中に服用しても安全と思われる。母親が妊娠中にフルオキセチン(プロザック 日本未発売)を服用していても、赤ん坊に長期的な影響が残ったという報告はありません。
けれども、プロザックとその代謝産物は長く体内に残るため、多くの医師は妊娠中、少なくとも出産間近の時期にはプロザックの服用はお勧めしません。

MAO-Iについては、赤ん坊の先天的奇形の割合が通常より高くなるという研究が一つあります。

他の抗うつ薬では、データがほとんどありません。したがって、妊娠中に抗うつ薬をのむ必要がある時は、三環系か、SSRIのセルトラリン(ジェイゾロフト) パロキセチン(パキシル)を検討するのがいいでしょう。

重症のうつ病や自殺の危険性のあるうつ病の妊婦の治療では、修正型電気けいれん療法(mECT)が一番安全です。
授乳期に抗うつ薬を服用しても大丈夫でしょうか?
この点についても、抗うつ薬をのむか(あるいは授乳をしないか)どうかの判断は、リスクと利点を勘案して、患者自身が下さなければなりません。

三環系とSSRIは母乳の中に混じるが、濃度は母親の血中よりはかなり低いのがふつうである。母乳を飲んでいる赤ん坊の側では、三環系のアミトリプチリン(トリプタノール)ノルトリプチリン(ノリトレン)とSSRIのセルトラリン(ジェイゾロフト)、パロキセチン(パキシル)は検出されない程度です。赤ん坊に副作用があったとの報告はありません。授乳期のうつ病の母親にはこれらの薬が適しているといえます。

フルオキセチン(プロザック 日本未発売)は使わないほうがよいでしょう。赤ん坊に副作用(腹痛や、血中プロザック・レブルの上昇)がみまれるとされております。
更年期(初老期)という人生の転機にうつ病を発症しやすいのはどうしてですか?
児童・青年期から成人期・初老期・老年期のいずれのライフステージにもうつ病は生じます。そのなかでも、時代、民族を問わず、昔から、更年期に(内因性)うつ病が発症しやすいのはよく知られ、更年期うつ病(あるいは退行期うつ病)と呼ばれています。とくに女性についていわれることが多いものです。
女性は更年期に入り、エストロジェンの減少に代表されるホルモンの大きな変化をきたし、これ自体がうつ状態を引き起こす要因となります。その一方で、更年期は女性性の減退・喪失という喪失体験を含意します。これもうつ病の要因となります。更年期うつ病では制止よりも不安・焦燥が目立ち、また「からだが腐ってしまった」などの心気妄想、「財産がすっかりなくなってしまった」などの貧困妄想、「大変な罪を犯してしまった」などの罪責妄想が特徴的です。また、突然、首に包丁を刺し自殺を図るといった予想外の激しい行動が見られるので、注意を要します。この激しい興奮が生じるうつ病は激越うつ病と呼ばれています。更年期には激越うつ病の形を呈する病象が多い傾向があります。
男性でも、初老期は(内因性)うつ病の好発時期です。男性ホルモンの減少というホルモンの変化に加え、定年をむかえたことによる仕事の喪失、ないしそれまで持っていた社会的地位の喪失という喪失体験が要因となります。
人間の生は一連のリズムによって特徴づけられます。朝起床し、仕事を始める活動の時間と仕事を終え家でゆっくり休む休息の時間、つまり覚醒と睡眠がその基礎的なリズムです。春・夏・秋・冬という季節の循環に連動する人間の気分の波も、人間にとって基本的なリズムです。内因性うつ病は、この自然なリズム性が失調をきたした病態であるととらえることも可能です。女性では、約28日周期の性ホルモンの変動があり、複雑かつ繊細な生命的なリズムがあります。抑うつ症状を呈する月経前症候群(PMS)、あるいは月経前不快気分障害(PMDD)は、このリズム性から派生した病態といえます。更年期は人生の大きなリズムのひとつを構成するもので、更年期うつ病は同様に、女性特有の生命的なリズム性から派生した病態とみることができます。
うつ病の人は疲れやすいと聞きましたが、うつ病に伴う疲れと普通の疲れとの違いについて教えてください。
長い時間仕事をしたり、根をつめて勉強したり、少しきつい運動をしたりすれば、誰でも疲れるのは当然のことです。通常は、お風呂に入ったり、ストレッチ、音楽を聴く、バラエティ番組を見て笑う、などで気分転換をはかり、睡眠をゆったりとれば翌日にはたいてい疲労は回復します。
しかし、適度な疲労回復をしようとする時間も、気持ちの余裕もない時はどうなるのでしょうか。時間に追われて働き通しのお父さん、家族の心配が絶えなくて休む気にもなれないお母さん、夜遅くまで塾通いの子どもたち。現代の生活の場面によく見られる光景です。
それでも、がんばったことがうまくいけば達成感が生まれて、お父さんはがんばったんだと自慢できますね、誇りも生まれるでしょう。お母さんも一緒になって喜び、日頃の疲れも吹き飛びます。子どもさんも、お父さんを見習って、一生懸命何かに打ち込み自信が生まれるかもしれません。
このように私たちは、精神的にも肉体的にも、何か疲れを生じさせるような出来事に常にさらされていますが、いろんな経験を通し乗り越え、つらいことがあってもバランスをとれるようになっているのが通常です。
ところが、うつ病の人は、歯を磨くこと、トイレに行くこと、食事の用意や後片づけなどの、日常生活のちょっとしたことでも疲労感を生じます。
何をするにも、体が鉛のように重く、思うように動けません。座っているだけでも疲れてしまい、すぐに横になりたくなってしまいます。
周囲からは何もせず一日中ごろごろしているように見えます。それが余計に罪悪感や不安感を生み、申し訳ない、自分はダメだと思うようになっていきます。いくら寝ても疲れは回復しません。それどころか、肩こり、背中の痛み、頭痛、関節痛、手足のしびれなども生じてきて、疲労感は増す一方です。「疲れるようなことはしていないのにすごく疲れやすい。自分はなまけているのだ」と自分を責めます。適切な休養をとれば速やかに回復する普通の疲れとうつ病の疲れは質的にまったく異なるものなのです。
うつ病になると判断力や記憶力がおちますか。
必要な情報を選び、学んで、覚える、そういった脳の働きのことを「認知機能」といいます。うつ病になると、この認知機能が低下してしまうので、何かを選んで決めようとする力も低下(判断力の低下)、覚えたことを思い出そうとする力も低下してしまいます(記憶障害)。「認知」というと、認知症の関係と思われがちです。でも、実際はうつ病の症状のひとつのことがあります。私は若年性の認知症でしょうか、といってくる方も多くいらっしゃいます。
仕事のデスクに座ったものの、何から始めていいかわからなくなります。何を頼まれたか忘れてしまったり、何度も同じことをいったりやったり。同僚に指摘され、頭を抱えてしまうでしょう。
また、何か仕事を任されたとき、断ることもできず、決めようと思っても、なかなか決まりません。こうなったらどうしよう、ああなったら困ると、不安ばかりが先に立ってしまいます。こうして次第に仕事にも支障をきたしてしまうのです。
やらなければいけないという責任感は人一倍あるのですが、思うように進まないのでイライラし、自分を責めることにつながっていきます。つまり、うつ病になると認知機能が低下し、仕事がうまくいかなくなる結果、自責感や周囲に迷惑をかけているという気持ちが増していき、うつ病がさらに悪化する、という悪循環を作ってしまうのです。
うつ病の診断基準のひとつに「思考力、集中力、決断力の低下」というものがあります。
問題を解決しようとする思考力や集中力も、認知機能に含まれます。うつ病になると、認知機能の低下が見られます。そのため認知症に似た症状が現れますが、うつ病がよくなれば認知機能の低下症状も改善します。
うつ病の際に認知機能の低下が目立つ人がいます。仮性認知症と呼ばれ、認知症との区別がつきにくくなることもあります。うつ病による仮性認知症の場合には、「呆けてしまった」と深刻に悩むことが多いのにくらべ、認知症では、認知機能の低下を隠し、深刻味に薄いという特徴があります。しかし、この区別は、困難なことが少なくありません。きちんと専門医にご相談ください。また、自分では考える力が低下していますので、相談する際は、信頼できる人に手伝ってもらいましょう。
うつ病の人はなぜ朝が苦手なのでしょうか。
うつ病になるととくに朝、症状が重くなってしまう原因のひとつに、日内のリズムが崩れてしまうことがあげられます。典型的なうつ病の特徴が症状の日内変動です。たいていは、朝が不調で、昼過ぎ、夕方頃から多少は調子が戻ってきます。まれですが、逆の日内変動を示す人もいます。
睡眠障害により、早く目が覚める、眠った気がしないなどの症状があるため、いつもは多少なりとも取れているはずの、からだや脳の疲れをひきずったまま、朝を迎えることになります。
からだが重い、だるい。仕事に行こうと思うのに、気力がない。いつまでたっても布団から出られません。ちょうど二日酔いの朝に似ています。
二日酔いの場合は、前の晩に飲み過ぎて椅子から転げ落ちたりしたことを朝思い出して、ぶつけた足を痛がりつつ、いつもよりはしゃいでしまった自分に自己嫌悪を抱きます。体調も悪く、吐き気もして、できることなら会社を休んでしまいたい、恥ずかしくて顔を見せられないし、なんでこうなってしまったのかと落ち込んでいます。ただし、この場合は、たいてい夕方にはすっきりして、また飲んでしまうということもあるでしょう、多少周囲に迷惑をかけており、結局懲りないので困った悩みです。
うつ病の場合はこの状態が、お酒のせいでなく、毎日ほとんど続きます。風邪をひいたわけでもないのにだるいのですが、無理に会社に行って、さらに落ち込んでいきます。
海外旅行などで時差が生じた場合でも、疲労、不眠などが起こります。しかしこの場合は、短期間で改善します。うつ病の場合は、昼間はからだや脳の疲れが出てしまって眠くなります、夜は逆に不安や焦りなどでかえって目が冴えてしまって休まりません。このような状態が2週間以上続きます。
うつ病を治療しないと、本来あるべき体内リズムが狂ったままで生活することになります。睡眠の質を改善し、日中は適宜光を浴びる、寝る時間になったら明かりを消すということも重要ですが、日中の仕事があまりにも多すぎたり、心配事がずっと続いて抱え込んでしまうと、次第に体内リズムが崩れてからだやこころが休まらなくなり、朝に疲れが溜まり、気分の落ち込みも目立つようになります。
適応障害とはなんですか。反応性うつ病とは違うのですか。
適応障害とは、明確なストレス因により、抑うつ、不安、行動の障害のいずれかの症状を呈し、通常予測される反応の程度を逸脱して、著しい苦痛を自覚し、日常生活、社会生活に支障をきたす病態をいいます。さまざまな心理社会的ストレス(環境因)により、心身の緊張状態が生じ、それが個人の体質や素質(遺伝因)とのバランスによって、さまざまな反応が現れます。
通常、これらの反応は、外界からのストレスに適応するためのバランサーとしての役割を果たしていますが、過大なストレスが長期間続いたり、もともとストレスに大変過敏な体質であったりすると、このバランスが崩れて生活上でもさまざまな支障をきたすようになります。適応障害は、はっきりとしたストレス因子に対する反応で、ストレス因子はどんなものでも原因になりえますが、急性ストレス反応(障害)、外傷後ストレス障害(PTSD)におけるようなまれで破局的な出来事よりも、誰もが経験するかもしれない生活上のストレスフルな出来事が一般的です。
適応障害は、他の精神疾患をすべて除外された後に診断される残余カテゴリーですが、ごくありふれた疾患で、精神科外来を訪れる患者さんの10%以上ともされています。とくに、悪性腫瘍などの身体疾患で入院中の患者さんにおける適応障害の割合は非常に多いとされています。
症状としての不安や抑うつは最も多い症状です。そのほか、頭痛や肩こりなどといった自律神経症状や、不登校や出社拒否、引きこもりといった行動の障害も見られます。
適応障害の特徴として、明らかなストレス因子に曝露してから症状を発症するまでの時間(3カ月以内)、症状の持続する期間(長くとも2年)、ストレス因子が終結した後6カ月以内に症状が回復することなどがあげられます。
あらゆる精神疾患においてストレス因子は発症や増悪の要因となりうるため、例えば、反応性うつ病などとの鑑別が難しいことがありますが、不安障害やうつ病など他の精神疾患と診断できる場合は、基本的に適応障害と診断できません。また、長引くストレス因子(慢性身体疾患の罹患など)のため、経過が6カ月を超えるような場合、うつ病や気分変調症に移行することが多いとされています。
適応障害の治療では、原因となっているストレス因に十分に配慮した対応が重要であり、ストレス因子を特定する、ストレス因子に対する患者さんの対処能力、支援体制を明らかにすること、患者さんが持っている能力、支援の利用を阻んでいる要因を明らかにすること、ストレス因子の解消への方策を検討する等の対応も求められます。通常のうつ病の治療に比べると、薬物療法の役割は補助的です。
うつ病になりやすい季節や環境はありますか?
「季節性うつ病」とか「冬期うつ病」という言葉をお聞きになったことはないでしょうか。
うつ病のすべてではありませんが、ある季節に限局して発病もしくは症状が悪化しやすいうつ病はあります。
季節性うつ病は、秋から冬にはっきりとした誘因なくうつ状態になり、春になると自然に回復します。通常のうつ病とは異なり、過剰な睡眠や眠気、食欲がかえって増すことが特徴的で、とくに炭水化物をやたらととりたくなるのが特徴です。女性に多く、日当たりが悪く冬の長い北部の地域に多いとされています。逆に季節性うつ病の方が南に移り住むと症状が改善することがあるといわれています。また、冬と同じような環境、すなわち日当たりの悪い環境でも症状が悪化することがあり、窓がなかったり、あっても北向きの小さいものしかない環境で調子を崩される方もいらっしゃいます。つまり、重要なのは日照時間ということになります。
日照時間はコルチゾールやメラトニンの分泌のリズムと関連します。コルチゾールとうつ病との関連性は検討されていますが、メラトニンも大変に重要であろうと考えられています。というのも、メラトニンはうつ病の発病に関与していると考えられているセロトニンと深い関係があるからです。メラトニンの原料はトリプトファンで、そのトリプトファンに酵素が働いてセロトニンとなり、さらに別の酵素でメラトニンが合成されるので、いわばセロトニンとメラトニンは兄弟なのです。このことからも、うつ病の発病と日照時間が関連することに納得していただけるのではないでしょうか。
さて、以上のようなメカニズムで起きる季節性うつ病の治療法は、まずは「日を浴びること」になります。ただし、そもそも日を浴びる時間が不足しがちな地域でこのような病気になっていることが多いわけです。ですから、このような場合は、非常に高い照度の光をわざわざ浴びるという治療(高照度光療法)が第一選択となります。これは2500~1万ルクス(通常の照明はリビングなどで150~300ルクス、細かな手作業でも750~2000ルクスが適当とされています)という相当に明るい特殊な照明器具を、起床直後に見続けるという治療法です。ただし、うつ病の重症度によっては抗うつ薬を投与してもらうほうが適切な場合がありますので、医師との相談が必要でしょう。
双極性障害を引き起こす身体疾患はありますか。また双極性障害を発症しやすい季節はありますか。
脳に直接侵襲を及ぼす身体的原因により精神障害が生じることがあります。これには脳そのものに.病変が生じて精神症状を呈するもの(器質性精神障害)、脳以外の身体の疾患が脳に影響を与えて精神症状を呈するもの(症状性精神障害)、脳に対する作用を持った物質が外部から身体内部に入って精神症状を呈するもの(中毒性精神障害)があります。このような形で、うつ状態や躁状態、軽躁状態が生じることがあります。さまざまな身体疾患で起こりえますが、とくに甲状腺機能障害がこのような状態を起こしやすいことが知られています。
たとえば、双極性障害の女性の26.9%、双極性障害の男性の5.7%に甲状腺機能障害が見つかったという報告があります。甲状腺機能障害の種類としては甲状腺機能低下症が多いのですが、実は双極性障害の治療薬として用いられるリチウムやカルバマゼピンが甲状腺の機能を低下させる副作用を生じる可能性があります。そこで、このような薬物を服用したことのない双極性障害疾患にしぼって甲状腺機能低下症の頻度を調べたところ、9%に発見されました。これは一般人口における甲状腺機能低下症の頻度(3%)よりも明らかに多く、薬物の影響を除外しても双極性障害の背景には甲状腺機能低下症が存在することがわかります。双極性障害の中でも、双極Ⅱ型障害のほうがⅠ型障害よりも甲状腺機能が低いことも報告されています。
甲状腺機能低下症やTSH(甲状腺刺激ホルモン)のみが高い潜在的甲状腺機能低下症がラピッドサイクラ―(89頁参照)と関連しているという報告もあります。このことは、甲状腺の機能が低下することで、双極性障害の経過に影響を与え、再発を促進することを示唆します。ラピッドサイクラ―の患者に対して、甲状腺ホルモンをリチウムなどの気分安定薬に追加すると再発が予防できることをしばしば経験します。
また、季節との関連では、いわゆる季節性感情障害の少なくとも3割くらいの双極性障害が含まれることが判明しています。このような患者では、冬にうつ病エピソードを生じ、夏に軽躁病もしくは躁病エピソードを呈することが多いことが知られています。
うつ病再発の危険因子
・2回以上の再発エピソード
・重篤なうつ病エピソード
・精神病性うつ病のエピソード
・他の精神疾患(不安障害など)の併存
・身体疾患の併存
・高齢
・気分障害の家族歴
・心理社会的支援の乏しさ
・残遺症状の存在
・内服継続の不良
など
うつ病や双極性障害を再発させない、良い方法はあるのでしょうか。
まずはひとつのエピソードを完全に良くすることが大切です。治りきらない場合には再発の危険が高くなります。次に、薬による治療を続けることは再発を防ぎます。うつ病であれば抗うつ薬が、双極性障害であれば気分安定薬が、それぞれ再発防止に有効であることは確かめられています。これらの薬物を長く飲めば飲むほど再発の可能性は低くなります。
しかし、うつ病や双極性障害の再発にはストレスが関連することがよく知られています。ストレスのない生活は考えられませんし、予期しないストレスも多々あります。大切なことは、具合の悪くなる予兆をとらえておくことです。うつ病や躁病のエピソードが始まる際には、患者さんごとに一定の特徴が認められる場合が多いと考えられています。とくに多いのは睡眠状態の変化です。これにより生活のリズムが乱れると躁病エピソードが始まることが知られています。このほか、食欲の変化、微妙な体調の変化などがエピソードの始まりに起こることが多いようです。この変化を早くとらえ、受診につなげることは再発予防に役立つと思います。
また、再発を何度も繰り返している場合には、患者さんごとに引き金となる出来事が決まっている場合が少なくありません。患者さん自身はこのことに気がついていないことが多いようです。このような出来事としては、進学、退学や卒業、就職、就職、転職、退職、結婚、出産、離婚、身近な人の死、子どもの独立、転居、事故、身体の病気などが含まれます。
そこで、病気の経過を図に示し、そこに出来事を書き入れる作業が再発防止に役立つ可能性があります。この際、家族など周囲の人の意見も参考にすることが大切です。さらに、その時の治療内容、薬の種類、飲酒量の変化などを加えることで、いっそう役に立つことが期待されます。さらには、認知行動療法により気分の変動をコントロールすることも再発予防につながります。詳細については、モニカ・ラミレツ・バスコ著、野村総一郎監訳『バイポーラ―(双極性障害)ワークブック』(星和書店、2007年)をご参照ください。
うつ病(双極性障害)の人はお酒とどのようにつきあえばよいのでしょうか。
基本は、うつ病にも、双極性障害にも禁酒が求められます。
うつ病では不眠が90%以上の患者さんで出現します。とくに不眠の中でも中途覚醒や早朝覚醒など睡眠の維持障害が起こりやすいといわれています。入眠が悪い時に寝酒をすると、寝つきは良くなりますが、アルコールは肝臓で3~4時間で代謝されて、覚醒作用が出現し、かえって早く目が覚めて、それから再入眠しづらくなります。また、睡眠も浅くなるため、寝酒を常用するとうつ病患者さんではとくに不眠が増悪します。少なくとも入床する3時間以内には飲酒しないことが大切です。
また、アルコールは気分を高揚させる働きがあるため、うつ病で気分が落ち込んだり、イライラしたり不安な時にその対処法として用いると一時的にはそれらの症状は解消することもありますが、かえってうつ病が悪化することも少なくありません。アルコールを長期間常用することで二次性のうつ病が出現することがあるからです。うつ病で気分が憂うつで「死んでしまいたい」などの希死念慮がある時に飲酒することが、かえってうつ病を悪化させ、自殺につながることもあります。うつ病の患者さんでは早期覚醒が見られ、また朝の覚醒後の気分が悪いため、他の家族が眠っている早朝にひとりだけ覚醒し、より孤独を感じ、自殺に至るケースが少なくありません。アルコールによるうつ病の増悪や寝酒により早期覚醒が強まり、よりいっそう朝の抑うつ気分が顕著となり、自殺が増加することが考えられます。
一方、躁状態ではアルコールによってますます気分が高揚し、躁状態が増悪します。また、躁状態では夜の睡眠時間が短いため、寝酒によってさらに睡眠時間が短縮します。
したがって、毎日飲まないこと、朝、昼から飲まないこと、また眠れない、気分がすっきりしないなどの対処法としてアルコールを使用しないことが大切です。
抑うつ状態が著しい時はできるだけアルコールは控えるべきです。抑うつ状態が改善してきた時は休肝日を少なくとも週に1~2日は作り、夕食時に少量にとどめるべきです。
しかし冒頭に述べましたように、禁酒が原則です。飲酒によって症状が軽快することは絶対にないことを繰り返し警告しておきます。
規則正しい生活はうつ病(双極性障害)の予防や治療にとって大切ですか。うつ病の治療に運動や食事を取り入れることはできますか。
うつ病では夜の睡眠が障害され、午前中の気分が悪くなります。一方、夕方から夜にかけて気分が改善してきます。そのため、朝方から昼過ぎまで眠って、夕方から深夜にかけて覚醒するような昼夜逆転の生活が見られることが少なくありません。しかし、そのような生活を続けると家族の中でも孤立していきます。
さらにうつ病(双極性障害)の発現機序として、日内リズムの障害が考えられており、少なくとも昼夜逆転などの日内リズムの乱れはうつ病(双極性障害)の増悪や再発・再燃につながるといわれています。例えば交代勤務を6年以上続けている人は、交代勤務をしていない人や交代勤務が6年以下の人と比べ、うつ病の発症率が7~8倍高いことが報告されています。
人の日内リズムは脳の視床下部の視交叉上核にある体内時計がコントロールしています。睡眠・覚醒リズムだけではなく自律神経、内分泌、代謝のリズムもこの体内時計が調整しています。しかし、体内時計は約25時間の周期で動いており、これを朝の光、運動、人との接触、規則正しい食事摂取(とくに朝食)や昼夜の環境リズムなどの同調因子が24時間にリセットしています。これらの同調因子が減少すると日内リズムが乱れやすくなります。とくにうつ病の患者さんでは、脳の脆弱性が強いため体内時計が乱れやすくなっています。
したがって、うつ病の急性期は休息が必要なため、一日横になっているほうが良いこともありますが、少なくとも三度の規則正しい食事(うつ病では食欲が低下しますが、少量でも良いし、牛乳やスープだけでもかまいません)と夜間の睡眠を確保する必要があります。また、回復期や寛解期では朝の光、軽い運動、人との接触などさらに同調因子を強化し、規則正しい生活を送ることが日内リズムを整え、睡眠だけでなく、自律神経や内分泌のホルモンリズムの働きを正常化し、症状の改善にもつながります。
うつ状態から躁転する時も睡眠不足や昼夜逆転などの不規則な生活が誘因になることが少なくありません。また休職中の患者さんが社会復帰をするためには朝からの就労となるため、日内リズムが正常化し、朝型へ戻す必要があります。近年ではリワークのためのデイケアが盛んに行われるようになったのは日内リズムの是正をひとつの目的としています。
したがって、うつ病や躁病などの双極性障害の予防や治療、社会復帰、再燃防止には規則正しい生活を送ることは不可欠といえます。
睡眠を上手にとる方法を教えてください。不眠を改善することがうつ病の治療や予防につながりますか。
うつ病(双極性障害)では不眠は必発します。従来、不眠はうつ病の初期症状として考えられてきました。しかし最近、不眠が持続するとうつ病が発症する可能性が指摘されてきています。したがって不眠を治療せずに放置しておくと、うつ病に発展する可能性があるわけです。したがって不眠を早期に治療することがうつ病の予防や再燃・再発予防にもつながります。また、うつ病の遷延化や自殺企図を防ぐためにも不眠の改善は重要であることが報告されています。
以上のようにうつ病の患者さんではもちろんですが、一般の方にとってもうつ病の予防という観点からも睡眠を上手にとることは大切です。現代社会は24時間社会、夜型社会あるいはストレス社会といわれ、睡眠がとりにくい環境にあるわけです。その中でいかに睡眠を確保するか工夫していくことは重要となります。
まず就寝前は自律神経の副交感神経を優位にしてリラックスするかが大切です。そのためには穏やかでゆったりとした音楽を聴く、香り(ラベンダーなど)のアロマ、読書など自分なりのリラックス方法を習慣づけることです。また、就寝約1時間前に40~41℃の少しぬるめのお湯にゆっくり20分間程度入浴することも、リラックスを促し、身体を温めることにつながるので、ここちよい眠りを誘います。
一方、睡眠に悪影響を与えるものを避けることが重要です。就寝前3~4時間のアルコール(寝酒)や日本茶、コーヒーなどのカフェイン類、就寝前1時間の喫煙は睡眠を妨げます。また、明るい光は交感神経を刺激して覚醒させるため、就寝1時間前より部屋の照明をおとし、テレビ、ビデオ、インターネット、携帯電話などは使用しないようにしましょう。
朝一定の時刻に起床して光を浴びると、約16時間後より脳の松果体よりメラトニンが分泌されて眠りを誘います。したがって、規則正しい時刻に眠るためには、その16時間前に規則正しく起床することが大切です。規則正しい食事(とくに就寝前2時間の食事は控える)や運動(就寝3~4時間前の軽い運動が最も効果的)を心がけましょう。また、高齢者は午後の2~4時の眠気が強くなってくるため、昼食後に短時間(20~30分)の昼寝は午後の眠気を軽減させ、意欲や活動性を高め、その結果、夜間の睡眠の質を高めることも報告されています。ただし昼寝は遅くとも午後3~4時までに終え、長くても1時間以内におさめることがポイントです。
うつ病の患者さんを抱える職場はどのように対処すればよいでしょうか。
近年、うつ病を始めとしたメンタルヘルスの不調による休業者が増えています。ここでは、基本的な職場としての対応について述べますが、近年はうつ病が多様化していることが指摘されており、環境要因に対する過敏性人格構造の変化などに伴い、さまざまなタイプのうつ病の人がいるとされています。したがって、症例ごとに細かな対応が必要であり、本人、精神科や心療内科の主治医、家族、職場との連携と適切な支援を行う必要があります。
以下に、4つのポイントをあげ、簡単にまとめます。
第一に、休職に至る際のポイントです。企業の産業医からの紹介で精神科を受診することがその後の職場での対応を容易にすると思われます。それは、その後の連携や職場での本人の様子を精神科主治医に知ってもらうことができるからです。
第二は、休職中のポイントです。一定の回復に至るまでは、職場からの接触は自重したほうがよいようです。産業保健スタッフなどを中心になるべく連絡窓口を一本化し、何度も連絡することは避けたほうがよいようです。
うつ病の急性期には十分な休養が必要です。ところが、休むことが苦手なのがうつ病の人の一般的な特徴です。うつ病の人のために十分休養できる環境をつくってあげることは大切な治療の第一歩となります。
したがって、職場の上司が、「この仕事を仕上げてもらわないと職場が困る」「ときどき顔を出して職場の様子を知ってもらいたい」「あまり休むと勘が鈍るからだらだらと休まないように」「早く戻ってくれないと困る」などと考えたり、本人に言ったりすることは、避けねばなりません。うつ病で休んでいる人に、会社から何度も連絡したりすることは極力やめるようにしましょう。
第三は、職場復帰のポイントです。現時点では、各職場で作成された職場復帰プログラムに従業員が合わせる必要があるので、それに合わせた復職準備が必要となります。各職場や職種によって対応は異なりますが、業務内容や業務量の負荷を軽減させ、本人のペースで調整できるような仕事に就かせることが望ましいと思われます。
対人関係が密な仕事や、チームでの仕事では負荷になることがあるため注意が必要です。また、この時期は患者さん自身が焦る時期なので丁寧な説明と理解を求めることが重要となります。
第四は、職場復帰後のポイントです。この時期は、再発予防に取り組む時期です。定期的な産業保健スタッフとの連携や主治医との連携などを通して再発の兆候などを含め、経過を追うことが大事です。再発を繰り返すと、患者さんの職場での居心地が悪くなるので、職場全体としての配慮が必要となることもあります。
以上が、主なポイントですが、症例により個々に対応の仕方が異なってくるので、それぞれ十分な連携を行うことが大切です。
うつ病や双極性障害の患者の妊娠・出産・子育てで注意すべきことはありますか。
うつ病は一般的に女性が多く見られます(男性の2~3倍)。一方、躁うつ病(双極性障害)の有病率に性差はありません。うつ病や躁うつ病は薬物療法、精神療法、環境調整などをバランスよく行うことにより、治療することが可能です。しかし、これらの病気は薬の飲み忘れ、心理的ストレス、生活リズムの乱れなどが誘因となり再発することが大きな問題です。
したがって、うつ病や躁うつ病の患者さんの出産および育児にはいくつかの困難が伴います。たとえば、①薬の胎児への影響、②妊娠の精神症状への影響、③出産・育児のストレスなどです。
投薬の影響ですが、妊娠中の三環系抗うつ薬(TCA)への暴露に関するAltshulerらによるメタ解析結果では、大奇形出現の上昇は認めていません。一方、スウェーデン人を対象としたKallenらの報告では、妊娠早期のTCAの暴露が心血管系異常の発現をわずかに増加させています。現在うつ病の薬物療法のファーストラインであるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の催奇形性リスクはあまり高くないようです。
アメリカ食品医薬品局(FDA)によるリスク分類では、多くの抗うつ薬や睡眠薬がカテゴリーCまたはDに指定されています(カテゴリーCは、動物実験では胎児への有害事象が証明されていて、適切で対照のある妊婦への研究が存在しないもの。しかし、その薬物の潜在的な利益によって、潜在的なリスクがあるにもかかわらず妊婦への利用が正当化されることがありうる薬剤。カテゴリーDは、使用・市販後調査、あるいは人を用いた研究によってヒト胎児リスクを示唆する明らかなエビデンスがあるが、潜在的な利益によって、潜在的なリスクがあるにもかかわらず、妊婦への利用が正当化されることがありうる薬剤)。
一方、躁うつ病の治療に用いられる気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)という薬は催奇形性の頻度を高めることが知られています。したがって、これらの薬はとくに妊娠早期にはなるべく服用しないことが好ましいと考えられます。
しかし、妊娠期や産褥期にうつ状態や躁状態が悪化すると、母体や胎児・新生児に悪い影響をおよぼします。したがって、利益と不利益を考えて、なるべく安全性の高い薬物療法を継続せざるをえないでしょう。
母乳への移行が高い薬を服用している場合には、授乳は控えたほうがよいでしょう。
妊娠や育児は大きなストレスです。一人でストレスを抱え込まずに家族にサポートを頼みましょう。最近は、夫の育児休暇を認める企業も増えています。定期的に産科や精神科・心療内科の医師を受診して気軽に悩みを相談しましょう。また、保健所や精神保健福祉センターでも医師・看護師・専門カウンセラーが母子相談にのっているので、それを利用するのも良いでしょう。
気分変調症とはなんですか。うつ病とは違うのですか。
気分変調症は、うつ病の診断基準を満たさないうつ症状が2年以上続いている場合に診断されます。うつ病とは、症状の続く期間と、その症状の重症度が異なります。うつ病と同じく男性よりも女性に多く見られますが、発症年齢はうつ病よりも若く、20歳台での発症が多いとされます。 気分変調症は、「憂うつで物事を楽しめない」「物思いに沈んでいる」「自己批判的で自信がない」「疲れやすく、また活気がない」「過去の出来事について思いわずらう」「自己否定的で失敗にとらわれている」といった状態が2年以上続き、また、それらが見られる日のほうが見られない日よりも多いことで特徴づけられます。うつ病とは違い、食欲や性欲といった身体症状はあまりはっきりせず、また動作が緩慢になったりすること(精神運動抑制)や、逆に気持ちが落ち着かず、立ったり、座ったりして落ち着かなくなったりすること(焦燥)は少ないとされています。ただ、うつ症状自体は軽症とはいえ、これらによる生活全般の困難さは強く見られ、その程度はうつ病と同等以上とされています。 両者の違いがわかりにくいのは、経過が2年以上にわたる慢性のうつ病が存在することがあげられます。これは、気分変調症とうつ病は同じひとつの疾患で、その病状の経過中に見られる重症度の違いというように考えることもできるからです。そのため、気分変調症を診断する際には、いくつかの点に注意する必要があります。まず、気分変調症とするには、最初の2年間はうつ病の診断基準を満たすほどのうつ症状が見られないことが必要となります。経過中にうつ病の診断基準を満たすようなうつ症状が見られた場合には、気分変調症とうつ病の併存「二重うつ病double depression」とするか、または、うつ病への移行を考える必要があります。また、気分変調症は、パーソナリティ障害と関連することもまれではなく、併存と見なすべきか、識別可能かなど難しい問題です。気分変調症の治療は、うつ病の治療に準じて行われますが、パーソナリティの病理に対するアプローチが必要であることも少なくありません。
子どもにもうつ病はありますか。
元気はつらつなお子さんが「うつ病になる」というのはなかなか想像しづらいことですが、最近では子供も大人と同様にうつ病や双極性障害になると考えてよいという立場が優勢です。 ある報告によると、子どものうつ病の有病率は0.5~2.5%といわれており、大人の場合と大差ありません。発症年齢は10歳前後で、それ以前はまれといわれています。 重要な点は、子どもは自分の気分や気持ちを十分に言葉にできないために、腹痛や頭痛などのからだの症状として訴えたり、いらいら感、不安感などでしかうつ状態を表現できないことがあるということです。あるいは学校に行かない、勉強をしなくなる、一日中寝ているといった行動面ばかりが目立ち、一見すると「怠け」に見えることもあります。とくに引き金らしき出来事があると、親御さんとしてはたとえば「友達関係に悩んで学校に行けなくなっているのだ」と〈誰にでもある乗り越えるべき問題〉としてとらえがちになり、「がんばって学校に行け」とますます本人を追い詰める結果になることもあります。 基本的には、大人のうつ病と同様に、夜十分に眠れない、とくに朝早く目が覚める、食欲が落ちて体重が減っている、休日や祝日でも元気がないなどがうつ病かどうかの判断材料になると考えられます。 治療は大人と同様に抗うつ薬や休養が中心になりますが、大人との違いは子どものうつ病の治療は長引く傾向があるという点です。通常、大人のうつ病では症状が.軽くなるまでの期間として3ヵ月~5ヵ月、半年が一つの目安になりますが、子どもの場合はそれよりも長く、場合によっては繰り返すことがあるといわれています。したがって、うつ病のお子さんをお持ちの親御さんは、治療について長い目で見ていくこころがまえが必要になります。 なお、子どものうつ状態については、摂食障害(心理的な原因で食事を食べなくなったり、食べ過ぎたりする障害です)や発達障害(こころの発達のバランスの悪さで起きる障害のことで自閉症などを含みます)など、他の疾患に合併する形で抑うつ症状が現れることもあるので、注意が必要です。
20~30歳代と40~50歳代のうつ病に差はありますか。
かつてうつ病は40~50歳代の中年から初老期に多い病気と考えられていました。しかし、最近はクリニックなどを中心に20~30歳代の若いうつ病患者さんが大勢来院していることが報告されています。中年から初老期のうつ病の特徴は、うつ病になったきっかけを自覚していないことが多いこと、自分を責める傾向があること、うつ状態が悪化すると感情が動かなくなり、ときには「悲しいという気持ちさえ出てこない」という状態になることがあげられます。一方、これらの特徴を欠いた若年層に特有なうつ病が、最近になっていくつか報告されています。第5章でも説明がなされていますが、非定型うつ病、現代型うつ病、逃避型うつ病、ディスチミア親和型うつ病などです。 それぞれのうつ病には種々の違いはありますが、詳しく述べると専門的になってしまいますので、おおまかな特徴を指摘するにとどめましょう。これらの新しいうつ病にほぼ共通する特徴は、自分を責めるよりは他人を責める傾向が強いこと、自分がうつ状態になった引き金や悩みごとについて自覚的で「うつになった原因はこれです」と明確に話すことが多いこと、他人の自分への評価に対して敏感でそれによって感情が簡単に変わることなどがあげられます。そして全体としてうつの症状は軽度で、仕事などやらなくてはならないことに対しては「やる気が出ない」と避ける一方で、自分の好きな趣味活動などは比較的熱心であるのも特徴的です。 さらに治療においても違いがあります。中高年のうつ病の治療が「薬と休養」であるのに比較し、若年層のうつ病では薬が効きにくく、休養でかえってうつ病が長引いてしまうといわれています。総じて、「若年者の新しいうつ病の治療は難しい」というのが、現在のところの精神科医師の率直な気持ちであると思われます。そうはいっても、もちろん、それぞれのうつ病に対してさまざまな治療的工夫の検討が行われているところです。 また、若年発症のうつ病は、経過をみていくうちに双極性障害であることが明らかになることがあります。軽い躁状態は本人が気づかないことがあるので、周囲が注意することが大切です。病気になる前と比較して軽口や冗談が多くなり、やたらと元気に動き回る場合や、逆に不機嫌でいらいらと怒りっぽくなった場合などは躁状態になっている可能性がありますので医師にご相談ください。
高齢者のうつ病と認知症は関係がありますか。
高齢者のうつ病と認知症の関連性については、①高齢者のうつ病が認知症へ進むか、②認知症とうつ病が合併するか、という2つの観点が考えられます。多くの方がお知りになりたいのは前者ではないでしょうか。 まずは高齢者のうつ病について説明します。 わが国で65歳以上を対象にしたうつ病の有病率を検討した報告では0.4~5%程度と幅があります。その特徴として、頭痛や腰痛、食欲低下などの身体愁訴が多く、不安、焦燥感が強い傾向にあります。また判断力や記憶力の低下などを認め、認知症のように見えることもあります。このような状態を仮性認知症といい、高齢者のうつ病で特徴的です。さらに時には「お金がない」「自分は癌だ」などと執拗に訴え、しばしば妄想的になることがあり、治療に難渋することがあります。 さて、高齢者のうつ病が認知症に進むかどうかですが、高齢者がうつ病になると認知症発症のリスクを高めるというのが現在のところ大勢を占める見解です。多くの検討では、高齢者のうつ病は健常な高齢者に比べ認知症発症リスクを2倍前後高めることが報告されています。また、高齢者のうつ病患者さんを平均3~4年間追跡したところ、認知症になるリスクが健常者に比べ3~4倍高いという報告があります。さらに、8年間追跡した研究では、追跡できた60%の高齢者のうち9%が認知症に移行したという結果が出ています。ほかにも、仮性認知症では認知症のなりやすさが3~6倍高くなるという研究があります。 以上をふまえて認知症になりやすい高齢者のうつ病の特徴をまとめると、65歳以降に初めてうつ病になった場合、うつ病を繰り返す場合、「記憶力がおちた」という訴えが強く、仮性認知症を認めている例などがあげられます。また、高齢者の双極性障害も注意すべきと指摘されています。うつ病がどうして認知症発症のリスクを高めるかはよくわかっていませんが、コルチゾールというホルモンが深く関与している可能性が指摘されています。 最後に認知症とうつ病の合併ですが、比較的高い割合で合併するといわれています。ある検討では認知症の50%前後でうつ状態、10~30%でうつ病を合併すると報告されています。そのような方々の特徴としては、抑うつ気分や悲哀感が目立たず深刻さがない、自発性の低下が目立ち周囲に無関心になる、不安が強くなる、不機嫌になるなどがあげられています。当然ながら、抗うつ薬による治療が必要になります。
薬はどのくらいの期間飲まなければいけないのでしょうか。
初めてうつ病を発症された方の場合、ほとんど症状がない状態(「寛解」といいます)となった後でも、少なくとも4~9ヵ月は継続して抗うつ薬を内服すべきであるとされています。なぜなら、うつ病は再発しやすいことが知られており、寛解状態になったからといって抗うつ薬をすぐに中断すると、50%の方は3~6カ月以内に再び症状が悪くなるという報告もあるからです。また、はじめてうつ病になった方の50~85%は2回目のうつ病の再発を経験し、2回目の再発をした方の80~90%は3回目のうつ病を経験するという報告もあります。うつ病再発の危険因子は表のとおりです。 一般にうつ病を2回以上再発された方や、うつ状態の時に長く休学、休職する、日常生活が破綻するなど社会機能の大きな障害を認めた方の場合は、治療により寛解に至った後も少なくとも2年間の抗うつ薬による維持療法を行ったほうがよいとされています。 一方、抗うつ薬の減量により再発率が高まる可能性が報告されており、維持量としては成人では急性期治療と同じ量を服薬維持することで再発予防効果が得られるとされています。抗うつ薬での維持療法による、うつ病の再発予防効果は少なくとも3年間は持続することがわかっています。 気分安定薬であるリチウムも、増強療法として抗うつ薬と併用することにより、うつ病の再発予防に対して有効性がほぼ認められていますが、抗うつ薬と直接比較しての効果は不明であり、リチウム単剤による再発予防投与は行うべきではないとされています。 維持療法に関しては患者さん一人一人で考え方が異なるかもしれません。「再発をしないように、抗うつ薬の内服を継続しながら、元気に日常生活を送りたい」という考え方も、「これだけ良い状態が続いているのだから、抗うつ薬を減らしてできればやめたい」という考え方のどちらもあると思います。また、急性期用量で長期にわたって維持をしていると、うつ病発症当初は目立たなかった眠気や鎮静などの副作用が出現してくることもあります。2年以上の維持療法を行うかどうかについては、患者さんの希望、年齢や併存疾患、遺伝的背景、再発による社会的損失の大きさ、予想されるライフイベント、長期通院・内服の負担、社会的・経済的状況などさまざまな要素を考慮に入れながら、主治医やご家族と、利点と欠点をよく話し合い決定することが重要だと思われます。 抗うつ薬を中止する場合でも、その後の通院自体を継続するかどうかの判断が必要になります。もし通院も中止するのであれば、再発時に早期に治療を受けられるように、再発の徴候や初期症状を患者さんやご家族に十分に把握していただくことが重要と考えます。
表うつ病再発の危険因子
・2回以上の再発エピソード
・重篤なうつ病エピソード
・精神病性うつ病のエピソード
・他の精神疾患(不安障害など)の併存
・身体疾患の併存
・高齢
・気分障害の家族歴
・心理社会的支援の乏しさ
・残遺症状の存在
・内服継続の不良 など

加藤敏.うつ病と脳 樋口輝彦・野村総一郎・加藤忠史(編) うつ病の事典 うつ病と双極性障害がわかる本 日本評論社

相手や状況をコントロールできない時に、苦手意識が生じるといわれています。
人はそれぞれ、自分の領域を有しています。「決めつけられる」「押し付けられる」「依存される」などは、すべてその領域を侵害されることとなり、より苦手意識を強化してしまいます。
しかしながら、苦手意識をなくそうとすればするほど葛藤し、混乱に至り、苦手な気持ちがより増すことでがんじがらめになってしまいます。
どうしてコントロールできないのか、という感情に注目し、結局のところ、「苦手は苦手でいい」 「見たくないものはみなくていい」 ときっぱり割り切ったほうがうまくいくことが多いようです。
できる限り、スルーしたうえで、改善できることが見つかれば、いつも通りに取り組んでください。
また、他人は変えられない、変わる時にしか変わらないと知っておくことが大切です。
自分の気持ちを無理にコントロールしようとせず、相手を許せないという気持ちが続くようであれば、相手を見ないようにするしかありません。
苦手だと思い込んでいるだけかもしれません。
人は、慣れていないことを苦手と思い込んでしまうことがあるようで、これまた厄介なものです。


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